過酷な環境に適応したサンゴ
Sea Seedが運営する陸上のサンゴ礁、さんご畑で誕生した高海水温に耐性をもったサンゴに関する論文が、今年1月にOxford University Pressに掲載されました。
Color morphs of the coral, Acropora tenuis, show different responses to environmental stress and different expression profiles of fluorescent-protein genes
この論文は、サンゴの特徴的な色を決定している遺伝子によって、サンゴの環境ストレスへの対応にも変化がありましたよー、というような内容になっているのですが、この実験のサンプルになっているのがさんご畑で生まれた耐性サンゴです。
まだこれから追加での調査が必要ですが、いまだにサンゴの白化を止める有効な手立てがない中で、過酷に変化をしていく環境に適応し、強くなっていくサンゴの存在が証明され、大きな希望になりました。
サンゴは強いストレスを受けるとまっ白になる
サンゴは、温度や光、栄養分などの環境の変化からストレスを受けると、組織の中の共生藻を排出してまっ白になります。
一時的な白化なら生き延びることができるのですが、さらに長期間ストレスにさらされ続けるとやがて死んでしまいます。
現在起きている白化現象のほとんどは、地球温暖化にともなう海水温の上昇によって引き起こされていて、過去100年のあいだに日本近海の平均海面温度は1℃以上も上昇してきました。
サンゴが生きるのに適した海水温は25~28℃ですが、近年では夏場の水温が毎年30℃を越え、リーフ内は32℃を超えることも珍しくありません。
Sea Seedがこれまで海に植えてきたサンゴたちも、少なからず高水温の被害を受けてきました。
なぜか白化しない群体
そんな中2015年ごろ、さんご畑で生まれ育ち海に植えられたサンゴの中に、ほかと比べて高海水温の影響を受けにくい傾向のある群体がいることに気づきました。
サンゴのなかにはもともと高水温に強い種類もいますが、その群体はとくに繊細で白化しやすいウスエダミドリイシという種類だったため、ひときわ注意を引きました。
そこから何故このサンゴだけが白化しないのか、観察をはじめました。
翌年の2016年夏、沖縄本島近海は異常海水温に見舞われました。
48日ものあいだ水温が30℃を越え、もっとも高い日では32.8℃にも昇りました。過去にも例のないほど過酷な環境だったと思います。
代表の金城は48日間、毎日海に潜り「今日こそは状態を崩しているんじゃないか」と不安になりながら海中観察を続けたそうです。
まわりのサンゴたちが白化していく中でも耐性サンゴだけはあきらかに様子がちがっていて、ストレスの影響をまるで受けていないようでした。
結局その年にも耐性サンゴたちはまったく白化せず、ありがたいことにそのことに興味を持って下さったOIST(沖縄科学技術大学院大学)の研究者の方々と、一緒に研究を進めてみようということになりました。
研究で分かったこととこれから
快適そうなとき、水温が高いとき、日光が強いとき、産卵の時期などOISTの研究者の方々は、途方もない労力をかけて考えうる全ての状況下での耐性サンゴの遺伝子を解析してくれました。
これまでの研究から、耐性サンゴたちは熱ストレスだけではなく、紫外線にも強く、乾燥にも長時間耐えられることがすでに分かっています。
厳しい環境に適応していく生き物たちの力強さを思い知らしらされる結果となりました。
まだまだこれから可能性を秘めていそうなのでこれからも研究は続きますが、耐性サンゴたちは今日も元気に暮らしています。